※こちらの文章は「人民新聞」2025年6月5日号に掲載されたものの改訂版です。
たびたび翻訳記事などで紹介しているとおり、現在のインドネシア社会は混乱した状況となっている。昨年10月に大統領に就任したプラボウォ・スビアント政権のもと、教育や医療の予算が削減されたことによる市民の経済的ダメージや、政府に批判的なアーティストなどに対する政治的圧力、国軍法改正による軍国主義への後戻りの危険性といった問題は、インドネシア各地で大規模な抗議デモを呼び起こしている。デモに対する警察の暴力も激しさを増しており、インスタグラムには日々血まみれになったデモ参加者や、警棒や放水車による暴行を受けている人の映像が流れてくる。
このような状況において、現地ではどのような混乱が生じているのか。またどのようにインドネシア民衆は抵抗を見せているのか。その様子を直接確認するために、私はGW期間にバンドンへと向かい、現地に住んでいる友人らとともにメーデーの集会に参加した。
メーデーの会場は、西ジャワ州地方議会などが位置するバンドン中心部の付近にあるチカパヤン公園である。この公園はバンドンを南北に貫く主要な道路沿いに位置しており、政治的集会や炊き出し、路上図書館の取り組みなどでよく使用されている。
11時過ぎに友人に連れられて公園へ向かうと、さまざまな産業部門の労働組合の赤い旗や、土地マフィアとの紛争に直面している地区の黒い旗を持っている人たちが集まっていた。参加者は円状に座ってお互いに話し合ったり、木陰で屋台の食べ物を食べたり、旗を振り回して遊ぶ子供がいたりと、とても和やかな雰囲気であった。また労働組合ごとに集まってシュプレヒコールの確認や問題意識の一致を取るといった、メーデーの集会らしい様子も見られた。
12時過ぎには全体としての集会が始まる。円の中心に立つ人が「メーデー!メーデー!」と呼びかけると、参加者は「労働者の団結を築こう!」と応答する。集会においては清掃や製造業、クリエイティブ産業の労働者が直面している長時間労働や低賃金といった日々の労働問題について次々とアピールが寄せられ、国家や企業に対して闘うために団結することの必要性が強調された。土地紛争によって当局やマフィアと闘っている地区の住民たちも労働者との連帯を表明した。さらに国軍法改正案を拒否することも呼びかけられ、労働問題と政治問題が一体であるといった確認も取られた。

ここまでが整然と行われた、いかにもメーデーといった集会の説明である。公園の傍らには、全身真っ黒の服に身を包み、赤黒の旗を掲げてたびたび気勢を張る、50人程度の不穏な集団がいた。アナーキストである。彼らは公園から抜け出して付近の道路の中央分離帯に集まってシュプレヒコールをあげたり歌を歌ったり、かと思えば一時的に道路を封鎖しながらゆっくりと公園に戻ってきたりといった、せわしない動きを見せていた。
彼らは「アレルタ!アレルタ!(「警告」の意味)」「アンチ・ファシスタ!」「ノージャスティス・ノーピース!」「ファックポリス!(警察に向かって中指を立てながら)」と掛け声をあげ、「警察は決して変わらない、一度殺人を犯した者はずっと殺人者だ」といった内容の歌を歌って参加者を鼓舞し、警察を挑発する。そしてインドネシアの労働歌で知られる「Buruh tani(「労働者と農民」の意味)」を合唱し、「レボルシ!レボルシ!(「革命」の意味)」と叫び、また「アレルタ!アレルタ!」が始まるといった具合に、かなり自由に動き回っていた。
15時頃になると大粒の雨が降り始め、メーデー参加者は近くの高架道路下へと移動しはじめた。群衆がたくさん高架下に集まると、道路を挟んで警察と対峙する形となった。すると壁によじ登って「ACAB(「あらゆる警察はクズ野郎」の意味のスラング)」とスプレーで落書きしはじめる人が出現しはじめ、自然発生的に湧きおこった「Buruh tani」の合唱と「アレルタ!アレルタ!」に巻き込まれることとなった。
警察とのにらみ合いが続くなか、高架下にある壁をバリバリと破壊して道路へと引きずり出し、バリケード封鎖する人たちが現れた。何者かが持ち込んでいた花火や爆竹の爆発音が鳴り響きはじめ、発煙筒が炊かれて警察がいる方向に投げられ、信号機をハンマーで破壊する人まで出てきた。やがて封鎖した道路を占拠し、警察に向かって石や火炎瓶が投げられはじめた。道路に設置されたバリケードにも火が放たれ、近くに停車していたパトカーは破壊されて火炎瓶が投げられた。
このようにメーデーはあっという間に暴動に転化した。20分ほど暴れていると、増援された機動隊が道路の両側から挟み込むように距離を詰めてきたため、群衆は道路標識や看板でバリケードを築きながら別の道へと移動する。私はここで友人に「これ以上外国人がいたら危ない」と言われて更に狭い脇道へと逃げ、群衆からは離脱した。後に聞くところによると、そのまま進んでいった群衆は近くの大学のキャンパスに避難していたという。

このようにして人生初めての暴動をバンドンのメーデーで目撃したのであった。事前の打ち合わせでは暴動になることは予期していなかったようで、アナーキストたちが意図的にカオス状態を作り出したことによって発展したものである。
破壊行為や放火などで暴動を引き起こそうとしているアナーキストがいても制止する人がいなかったのは、それだけメーデー参加者が社会や政治に対して不満や怒りを持っており、なにより国家権力に対する敵対心を抱いているからであろう。インドネシアはGDPの数値上は経済発展しているとはいえ、まだまだ不安定な雇用と安い賃金でしか働くことのできない人が多い。政治的変革に期待することも現実的ではないどころか、プラボウォ現政権はますます反動的な権威主義化を強めている。
このような状況で民衆が抵抗のために持ち得る「武器」とは、路上にカオス状態を作り出し、国家権力に対峙するテリトリーを解放し、それをもって民衆自身を自己組織化することである。そして日常的にコミューンを組織し、コミューン間のつながりや結節を増やすことである。こうした日常的-非日常的な実践の繰り返しこそが、やがて<蜂起>を準備するのであろう。